より良いデザインをするために。
より充実した人生を送るために。
2012年、ワヴデザインは「働き方すらもデザインしたい」という思いから、11ヶ月働いて1ヶ月休む、という試みを始めました。
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Wab Design INC. / ワヴデザイン
WEBをはじめ、印刷物からモーショングラフィックまで制作を手掛けるインディペンデントなデザインスタジオ。
www.wab.cc

Author

茶木 太徳

Hironori Chaki

エンジニア

組込系のプログラマーを経験後、スペインバルセロナに留学。帰国後2010年よりWeb制作に従事。2013年Wab Design INC.入社。


 

 

22日目。巡礼路では早朝から開いているカフェも多い。
朝6時にあるカフェに立ち寄るとファンキーな店員のお姉さんがマフィンをくれた。

 

 

「お代?いいよいいよ。巡礼者みんなにあげてるんだからさ」

 

 

うわー!そういうRPGみたいの待ってました。
さらに雑談では「日本映画好きよ。ジャッキー・チェンとかね」と。 100点の誤答!

 

 

 

 

朝からファンタジーな出来事にワクワクしながら歩を進める。
昼過ぎには、おばちゃんが庭に落ちてたという洋ナシをくれた。甘くて美味しい。今朝からのファンタジーに輪をかけて、なにか対人運の上昇を感じながら歩いていると、フランスのおじいちゃんと出会う。

 

 

 

年齢は70。目鼻立ちはキリリとしていて(ちょっとジャン・レノ入っていて)若い頃は相当女の子を泣かせていたとみた。

 

 

アルジェリアで生まれ、戦争が始まってフランスに逃げ、イタリアのシシリアに住んでたこともあって、今は義理の姉の孫が日本にいて、いつか日本にも行ってみたいとか。もうそれだけで1冊書けそうな人となり。一緒に歩きながらお互い微妙につたないスペイン語で(彼の母国語はフランス語)話したのは旅や自然や遺跡、食べ物の話題。僕の好きな話題。

 

 

 

そうそう、ひとつ気がついたことがあって、
イケてるおじいちゃんに共通なのは、過去の話をするときには「時代」のことではなく「自分」のことをいう。

 

 

つまり冒頭が
「ワシの若い頃は…」ではなくて「若い頃のワシは…」になる。

 

 

時代というレンジまで離れると見えないものが、ぐっと近づいて個人のエピソードとして語られるとき、その人が歩いた道の起伏となって現れる。そこには成功や失敗、無茶や内省があって、ときにそれは冒険譚となるでしょう。そういう方が話って面白いじゃないですか。

 

 

あとはやっぱり表情。70年人をたらしてきた笑顔とアイコンタクト、ウインクさえ混ぜてくる。女子でなくても参っちまうチャーミングさ。コロコロ変わる表情がシワとして刻まれていくのだろう。僕もバチッとウインクできるジジイを目指すぞ!

Mar 10th, 2017

10.やはりひとり

 

 

24日目。今回の旅の最長行 41km!
身体が慣れているので、それほど辛くなくなっていた。
すごい成長だ。

 

 

 

マドリッドから来た女の子2人に出会う。

ビルバオから500km歩いてきているというと、びっくりされた。
彼女らは100kmほどらしいということで、気がつくと自分は結構先輩巡礼者になってるんだなあと気が付かされる。

脚が痛いそうで先輩風吹かして、手頃の長さの枝を杖にしてあげた。

 

 

 

彼女らからは道にある「モラ」という木の実が食べられることを教えてもらう。赤いうちはダメで黒く柔らかいものが甘くておいしい。

 

 

 

 

 

 

しばらく一緒に歩いていたのだけれども、別の8人ほどのグループと合流する。パーティーは大所帯に。

 

 

大所帯は苦手。

ひとつは言語能力の問題。1対1で話すより、1対多で話すほうが圧倒的に難しい。主語誰なのよ。

 

 

 

もうひとつは、いわゆるパリピ感というかウェーイ感が苦手。特に旅ではアウトプットを落としてインプットしたい。景色をみたり足が地面をつかむ感覚を楽しもうよ。

 

 

 

なのでそっと分かれ道で離脱。独り歩きに復帰。
僕は本質的には大人数は苦手で巡礼しても変らないっぽいと悟る。

 

 

 

長かった旅ももう残り少ない。この頃からいつまでも歩いていたいと思い始めるようになる。暦の上では夏は今日までだそうで。モラをヒョイパクしながら歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巡礼路上には、人類が家畜化・愛玩動物化したすべての動物がいた。

 


26日目。
徒歩で100km以上を巡礼するとサンティアゴで巡礼証明書というものが発行される。

 

 

そしてこのあたりはサンティアゴから100km地点。となると証明書狙いの“観光巡礼者”はここから旅を始めるわけですよ。実際、ここから巡礼者の数は3倍以上に膨れ上がり、道によってはゾロゾロと列をなしている箇所もあるほど。

 


カフェやバル、土産屋も増え、巡礼道は観光色が強くなってくる。中にはナップサック、ビーチサンダル、Tシャツ姿で音楽流しはしゃいでいるグループもいて、なんなんだろうと思う。自分はクリスチャンではないけれど、巡礼はそういうヤツじゃないんだよ。全然論理的ではないけれど、なんかこう・・・なんかそうじゃないんだよ。

 


朝もやの中、10kmも歩かないうちからカフェに入る初心者巡礼者達をぐんぐん追い抜いてとにかく先に進む。

 

 

もっと静かな道を。感動のフィナーレを。がっかりさせないでくれ。

Mar 12th, 2017

12.到達

 

 

最終日。目的地のサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂までは24km。



いつものように未明に出発。明るくなった頃、サンティアゴの街を遠くに見る丘に到着。丘には不要になった巡礼の杖がたくさん置き去りにされていた。少し休憩をとり街へ降りていくと今まで幾度となく見てきた「サンティアゴまで」の標識が「サンティアゴへようこそ」に変わって、本当に終わっていくのだなーと。


郊外から1時間ほど歩くと徐々に街の賑わいが増していく。RPG的勇者の到着を待ちわびる村人の村、みたいなのをちょっと想像してた自分に苦笑。

 

誰も自分に見向きもしないの。毎日数百人の「勇者」が到着するんだからまあそうなんでしょうけど。人混みを抜けると大きな広場。そこには、サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂が。


到着した。



あっけなかった。

 

 

 


周りは抱き合って到着を喜ぶ巡礼者、写真を撮る観光客でごった返していた。僕の方は、大聖堂を見上げて拍子抜けしてしまった。

 

なんてあっけないんだろう。到着のうれしさより終わってしまったという喪失感がすごかった。到着をともに喜ぶ人がいれば違ったのかもしれないが。

 


到達証明書を受け取りに事務局へ。100組以上が列をなしていた。修道院の中、ろうそくの明かりでラテン名の洗礼名(ないけど)を呼ばれて厳かに羊皮紙に羽ペンで書かれた証明を受け取る自分を想像していたのだけれど、実際は完全に市役所のオーガナイズ。電光掲示板が自分の番号を知らせてTシャツの職員がこちらですとボールペンでシャシャっと書いて渡す。色気がないなー。そういうところだぞ!サンティアゴ!



その日の残りは、到着の余韻に浸る間もなくホテル探しに奔走。山ほどの観光客と到着した巡礼者で宿泊先は全然残ってない。

物語のようなきれいなフィナーレは飾れないのかもしれない。

 

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