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2012年、ワヴデザインは「働き方すらもデザインしたい」という思いから、11ヶ月働いて1ヶ月休む、という試みを始めました。
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Wab Design INC. / ワヴデザイン
WEBをはじめ、印刷物からモーショングラフィックまで制作を手掛けるインディペンデントなデザインスタジオ。
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Author

茶木 太徳

Hironori Chaki

エンジニア

組込系のプログラマーを経験後、スペインバルセロナに留学。帰国後2010年よりWeb制作に従事。2013年Wab Design INC.入社。


Mar 1st, 2017

1.旅は衝動的に

 

 

エンジニアの茶木です。

 

2016年、8月の終わりから27日間かけて、単身サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼の旅をしてきました。

 

巡礼とは、ヨーロッパ各地から、スペイン・ガリシアの州都サンティアゴ・デ・コンポステーラにある同名の大聖堂を目指し信仰を見つめ直すキリスト教の旅です。1000年以上の歴史があって現在では宗教上の目的だけにとどまらずスポーツや観光目的でも行われ、巡礼者数は年間数万人に上るそう。

 

僕の巡礼は、スタート地点はビルバオ。ルートは北の道と呼ばれる海岸沿いの道。総距離630kmを徒歩で踏破しました。

 

ルートと滞在地はこちら

 

 

 

1ヶ月休みをもらったら何をする?
入社の面接のときからそれは決まっていて「サンティアゴ巡礼」と答えていました。巡礼の主目的は、1ヶ月休み前に社員全員に行うプレゼンテーションで

 

 

「困難を成し遂げることで自信をつけたいから」

 

と説明していました。

 

 

・・・が、実はちょっと嘘です。

自信をつけたいのは本当なんだけれど、それは副産物です。

人生には目的を見据えずにすることもあって、旅なんかまさにそのひとつじゃないですか。

 

行きたい理由は「衝動」。
何が待っているのか、どういう変化が自分にあるのか。
それは「自信」なのかもしれないしそれ以外のなにかかもしれないし、何がでてもおもしろそうじゃないですか!

 

 

出発地点のビルバオは都会。
前日はグッゲンハイム美術館で六本木ヒルズと同じ蜘蛛を眺めたりしていたのに、今日から1ヶ月は、毎日一日25km前後歩いて次の街へ転々とする旅を始めなくちゃいけない。

 

 

出発予定の朝5:00を少し過ぎた頃、僕はまだホテルに。

 

 

外はまだ真っ暗で荷物も重い。
気分が全然乗らないので、無駄に何度も荷物の確認をしたり、ポケモン捕まえたり、ぐずぐずしてホテルを出たのは1時間遅れの朝6:00。それでもまだ真っ暗。方角もわからない。


「いきなり立ち往生、やんちゃな夢」*



そんな言葉が頭に浮かんで、10分ほど右往左往して、なんとか市外へでておおざっぱに西を目指す。方角はあっているはずだからと、とんでもない西遊記。

* KICK THE CAN CREW「mooving man」


2時間歩いて日の出。背中の方から徐々に明るくなってくる。
川沿いの道で工場の煙突が徐々に輪郭を帯びていく。
名も知らない教会を横目に街に入る。

 

 




個人商店を見つけて、パンと水、ポテトチップとビスケットを買って歩きながらの朝食に。(ポテチは塩分補給!)
朝の街が始動していくワクワク感。
新しい1日に初めから居合わせる感覚。いいですよね。


なんてカッコいいこと言いましたが、朝の時間は短いもので、太陽はどんどん角度つけてきてジリジリ肌を焼くし、荷物は肩に食い込むし、やっぱりとんでもないこと始めてしまったなと思いながら、予定時間を2時間以上オーバーして、命からがらアルベルゲ(巡礼宿)に到着。これを土日もなく1ヶ月続けるのかよ!

 

 

Mar 3rd, 2017

3.おしかけ親切

 

3日目。8月の最終日。スペインの夏はもう少し続きそう。

 

僕はビキニの間を縫ってビーチを歩いていた。
巡礼者には完全に場違いだけど、次の街へは渡し船が必要。そしてこれが巡礼者用の船着き場へ向かうルート。ここも立派な巡礼道。

 

 

その次の日の4日目。
靴ずれとビーチの日射のダメージ蓄積が限界を超えた。
特に靴ずれのほうはかなりひどく、到着後のアルベルゲで傷の様子を見ていたら、バルセロナの女の子2人が心配して薬をくれて



「腕も見せて、日焼けも水ぶくれになってるよ」



フランスの元看護婦長のおばちゃん、
それをスペイン語に翻訳してくれるポルトガルのカップル、

巡礼者たちが集まってきて大事になる。心配された途端、未発見の靴ずれや日焼けの水ぶくれがどんどんでてくるこの肉体。心配されたら発症する甘え上手な免疫システム。

マジックポーション(おそらく赤チン)を塗ってもらったり、
靴ずれ用にワセリンもらったり、とにかく積極的に優しい。

 

 

「古くは巡礼は命がけだった!明日は歩かず病院に行きなさい!」
締めに全員に念を押される。



みんなグイグイくるんですよ。
「親切にされてイヤな人なんていない」微塵も疑ってなくて、
それで、その夜は寝るときにちょっとうるっと来てしまった。(でも病院には行ってません)

 

 

巡礼の移動距離は1日平均25km。
巡礼というと1日中歩いているイメージがあるかもしれませんが、実際はゆっくりしている時間も結構あります。
ここでは巡礼の1日の流れを紹介します。

 

 

・起床

前日の疲労度やその日の移動距離にもよるけれど朝6:00か7:00に起きる。まだ寝ている他の巡礼者のために明かりはつけない。暗闇の中出発の準備をする。といってもズボラなので、寝る時の服装がほぼそのまま出発時の服装になっているので大したことはない。寝袋をくるくる巻いてリュックにつけて、乾いてない洗濯物をリュックに干して、スマホの充電コードを回収して靴を履くだけでOK。

 

 

・朝食

これもズボラなので、ビスケットとかパンとか1リットルのオレンジジュースのボトルだとかを抱えて、歩きながらすませる。

 

 

 

 

 

・休憩

2時間くらい歩いて休憩をする。町中だと朝開いているカフェもあるので、カフェ・コン・レチェ(≒カフェオレ)を一杯飲むことが多い。これが元気の元になる。

 

 

・移動

町をでて巡礼道に乗ってしまえば、数100m毎にある黄色いやじるしを追いかけていくだけでいい。

 

景色をみて歩く。それに退屈してくるとポケットにいれてあるアメをなめたり、カンナムスタイルのわかるところだけ30分くらい歌ったりする。それにも飽きると、脚が痛いとか、太陽で肌が熱いとか身体のことを考えはじめる。さらに飽きると、ちょっと悟りめいたことも思いつくようになるので、開いたプチ悟りをメモにとっておく。

 

 

 

 

・昼食

缶詰やパンやヨーグルトを食べて済ます。腹減りだったり長丁場のときはレストランで「プラト・ペレグリーノ」(巡礼飯)という、「巡礼者には肉と炭水化物だけあたえておけばいいだろ歩くし」というコンセプトの少し割安な昼食をとる。ソーセージ・ハム・肉・じゃがいも・たまご・パン・ティラミスみたいな。中学生球児の夢みたいな。消化器への暴力みたいな。

 

 

・到着

昼の1時、2時には次の街に到着し、宿を探す。特に混んでなければ見つけたアルベルゲ(巡礼宿)に腰を据えるが、街の規模やイベント(地域のお祭りとか)によってはアルベルゲが満室になっていて普通のホテルやペンションを探し回らないといけないときもある。ちなみに、お値段は巡礼宿なら5ユーロくらい。

 

 

・洗濯&シエスタ

前日に着てた服を手洗いして干す。アルベルゲには大体物干しスペースがあるが日当たりのいいところは取り合いになるので、ここはスピード勝負。夜はシャワーが混みがちなので昼のうちにすませる。そうしたら少しシエスタ。ゴロゴロする。どうせお店は空いてない。

 

 

 

・買い出し

シエスタが明けたら(4時くらい)夕飯と翌朝の朝食用にスーパーや個人商店で食材を調達する。肉団子やいわしの缶詰、ベーコン、ラーメン、パン、コメ、ミックスベジタブル、フルーツ、ヨーグルト、偽とんがりコーン、アルベルゲのキッチンにレンジやコンロがあるか綿密に考慮して買う。

 

 

・街の散策

大きめの街なら教会や町並みを見てまわる。買い食いしたり足りてない日用品を補充したり楽しい時間。おいしそうなお店をみつけた場合は外食する(綿密に考慮した自炊プランを立てていたとしてもだ!)

 

 

・翌日の準備&就寝

干してある洗濯物を取り込む。wifiの入る宿なら数日分の経過地の情報をローカルに保存しておく。その保存データをもとに翌日の行軍プランを決める。といっても残りの距離を残りの日数で割った距離に近い街を目的地に決めるだけ。日焼けの水ぶくれや靴ずれのケアもここで。荷物のせいとんをしたら日記を書いたり、日中に開いたプチ悟りをそっと閉じたり。そうこうしているうちに22:00の消灯時間になって就寝。

 

 

この繰り返し。

 

 

7日目。はじめての日曜日なので、寄り道を。

 

ルートからはずれて4kmちょっと。
この旅で唯一計画していた行き先があります。
それは「アルタミラ洞窟博物館」。



美術の教科書がお手元にある方は年表ページを開いてください。先頭に載っているのが「アルタミラ洞窟壁画」。ラスコーと並んで人類で最初期の絵画といわれ、1万年以上前の旧石器人が「いっぱい狩りてぇな」という願いを込めて、牛やイノシシやトナカイの絵を洞窟内に残したものです。それもわんさと200体以上も。


この「アルタミラ洞窟」の精巧なレプリカの「ニュー・アルタミラ洞窟」があるのが「アルタミラ洞窟博物館」なのです!(実物は痛みが激しいため閉鎖中)これは見に行くっきゃない!


洞窟絵画は、岩の凹凸を動物の筋肉の隆起に合わせて描いたり、若い牛、老いた牛を描き分けたり、高度な技術と観察があったことがよくわかる。

 

すごくないですか?

 

1万年前って食料の確保や自然の脅威で生きていくのに手一杯な時代じゃないですか。それでもアートやるって。「衣食住」足りてなくても「芸」が人間には必要。

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